4A病棟  Nさん

看護師になったばかりの私は、多分本当のこの仕事の重みの意味を解かっておらず、怖いとか不安とかいう感情もあまりなかった。でも、それが間違いであると自覚させてくれた、いつも思い出す忘れられない出来事がある。
夜勤に入り出した頃であった。受持ちのAさんは、公務員を定年後で、娘さんが毎日のように様子を見に来られ、新人の私に優しく話してくれた。かなり痰が多い状態で恐らく肺炎であったと思うが、ナースコールを押して何かを訴えるということはない方であった。

そんなAさんが夜勤で呼吸が停止しているのを発見した。驚いて、とにかく一生懸命吸痰をしたら、先輩が来る前に呼吸が戻り声掛けにも反応し元に戻っていた。次の夜勤でもそのようなことがあった。だから、私は3回目の時も同じように元に戻って、また笑顔がみられると思っていた。なのに・・・
「Aさん、○時○分お亡くなりになりました。」医師から家族に死亡宣告がなされた。3回目は、一生懸命吸痰しても当直医が蘇生を行っても、呼吸は再開せず、もう呼名反応はなかった。私は自分の吸痰が悪かったのだと思った。自分が痰をしっかり引いてあげれば、戻る(治る)という驕りを持っていたのだ。すみませんでしたと涙がこみ上げ、家族の前で泣いてしまった。家族はそんな新人を見て困ってしまったと思うが、「大丈夫だよ。あなたが悪い訳じゃないのよ。ありがとう。」と穏やかに微笑みながら声を掛けて下さったのだ。あとで、師長さんや先輩に叱られて、初めて自分が看護師としてとるべき態度について考えた時、新人看護師が挫折しないよう配慮下さった優しさを思い、恥ずかしくなった。この出来事をきっかけに、患者さんを治すことはできないかもしれないが、守るためにはどのような看護をするのか、看護師ができることは何かについて意識するようになった。スーパーナースではない自分が、驕らず素直に自分の力を認め、患者さんのことを想い行動することならばできるはずだと。私が20年間続けることができたのは患者さん、家族のおかげかもしれない。だから、後輩に、『あなたの看護を評価するのは周りの声や自分ではない。患者さんが決めることなんだよ。』と伝えてあげたい。患者さんはあなたの頑張りをきっと見ているから大丈夫、一緒に頑張っていこう!と。
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